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書評「自ら逝ったあなた、遺された私」
2008.12.22 Monday 21:53

平山正実監修 「自ら逝ったあなた、遺された私・家族の自死と向き合う」(朝日新聞社)

 

 本書は、自死遺族の悲しみを癒すために編まれた入門書であり、2004年に出版されたものである。執筆者らは、自死遺族の支援を目的に活動するNPO「グリーフケア・サポートプラザ」のメンバーが中心であり、監修者の平山正実氏もまた、この「グリーフケア・サポートプラザ」の理事長を務めている。

 

  最初にいくつかの言葉を説明することで、本書の性質を紹介することにしたい。

  まず、「自死」という言葉。これは「自殺」という言葉をあえて使わず、「自死」と表記することで、亡くなった人に責任はないのだという思想を明らかにしている。すなわち、亡くなった人は、みずらか自分の意志で命を絶ったのでなく、生きたいという気持ちを持ちながらも、病魔に侵されたがために、やむを得ずみずから死なざる得なかったのだという主張である。本書もまさにこの立場によって編まれている。

 次に、「グリーフ」という言葉。これは喪失を伴う悲嘆の感情をさしている。遺族自身が、この悲嘆を受け入れ、新しい生き方、再出発に向かっていく心の作業を「グリーフワーク」と呼ぶ。また遺族に対して、周囲の援助者が働きかけていく作業を「グリーフケア」と呼ぶ。本書は、現場の必要から、「グリーフワーク」も、「グリーフケア」も、双方を扱う内容となっている。

                                              

  さて、本書は三部構成になっている。自死遺族ケアの関係者が書いただけあって、現場の問題意識や実際的助言に満ちている。

 PART1は、「遺族の声」として自死遺族の生の声をふんだんに紹介している。自死遺族九人の体験談、そして自死遺族一七人に対するアンケート結果の紹介は、一〇〇頁に及び、本書のボリュームからすると格別な取り扱いとなっている。体験談を読むことも非常に大切なグリーフワークなのである。

 PART2の「グリーフワーク」では、専門家が、一般読者に向けて、それもの悲しみのただ中にある遺族に役立つように、実に具体的にわかりやすく解説をおこなっている。悲嘆のまっただ中にいる人が読んでも何らかのヒントが得られることだろう。

 PART3では「『自死』が遺すもの」と題して、主に「グリーフケア」の観点から専門家が解説を行い、遺族との対応方法や、自死者の心理などが扱われている。やはり大変読みやすい内容になっている。

 

 私も心理カウンセラーとして、自死遺族のカウンセリングを行うことがある。その際、カウンセリングとは別に、自死遺族を集めたグループ(自助グループ)への出席を勧めている。悲嘆感情の分かち合いは、人を癒し、人を再生させる力があり、場合によってはカウンセリングよりも数段上をいく。

 本書のような体験談を読むことも、また専門家が紹介する事例を読むことも、ある意味悲嘆感情を分かち合う機会となる。たとえ一時的な刺激だとしても、やがて人と対面する場に出て行く準備となる。巻末に詳細なグループや会の連絡先が載っていることも、そうした意味で、本書の魅力である。

*「ファミリー・フォーカス・ジャパン」誌、2009年春号(3月?)の書評欄掲載予定

 
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書評:「自殺の危険」
2006.12.18 Monday 19:05
書評:「自殺の危険」
(掲載:臨床心理学、金剛出版、2006年3月)

 本書は、自殺の危険について、その臨床的な評価や介入のあり方などを、実に広範にわたって解説したものである。臨床の専門家だけでなく、自殺の危険性の高い人を理解しようという家族や友人にも役に立つように書かれているためか、文章が平易で読みやすく、みずみずしい感じさえする。総じて、臨床的知見が全体を導いており、「哲学的な議論や統計学的な議論を進めていくつもりはない。むしろ、その姿勢は極力排除し、日常臨床に可能な限り密着してまとめていきたい」とする著者の意図が十分に成功している。

 改訂増補とあるように、1992年に上梓された有名な初版を基に、大幅に改訂を行ったものである。グリーフ・ケア(第8章)や、自殺報道(第9章)、過労死の問題(第10章)、自殺予防の国際的動き(第14章)、自殺報道(第9章)などを新たに独立した章で扱っており、初版から改訂版までの14年間の自殺の臨床と研究の広がりに意欲的に対応している。
右斜め下
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書評:「ファンタジー・プレイ・ボード」                     &「あしたてんきになあれ」
2006.12.09 Saturday 11:46
書評:ファンタジー・プレイ・ボード ガイドブック
書評:あしたてんきになあれ
(掲載:臨床描画研究、金剛出版、2006年)

 物語には力があり、それを眺めなおすたびに、ユニークな意味を見いだすことができる。

 これは、長い間、司法・矯正の現場で面接をしていた評者の実感である。それは少年鑑別所で、家族画を描いてもらって、描画後の質問・会話をしているときであったり、少年院で、グループの時間に、コラージュをみなでわかちあっているときであったりした。

 考えてみると、非行・犯罪相談にしても離婚相談にしても、当事者がどちらかというとかなりタフであり、他罰的に物事を考えがちなため、援助関係が作りにくい。また、一見常識的に理解しやすい動機や原因を熱心に語ってくれるものだから、理解することにおいても、治療・指導することにおいても面接者はすぐに手詰まり感に襲われる。しかし、というべきか、だから、というべきか、そうした臨床に身を置いていると、心理査定や心理療法、あるいは親教育などについて、いろいろな道具(偽薬から劇薬まで)を活用することに積極的となるし、物語を眺めなおすことにも精力的にならざるを得ないように思う。

 さて、今回紹介する2冊の本であるが、いずれも司法・矯正の実務家や出身者によるものであるのだが、一読してみて、ともに「物語」を扱うユニークな道具を鮮やかに見せていただいたような感じがした。

 まず「ファンタジー・プレイ・ボード ガイドブック」である。

 これは著者らが、幼児向け箱庭療法として、より幼児になじみやすく使いやすいものとして、創案したものである。保育士や養護教諭らとの地道な研究会の中で、試行、修正されてきただけに、歴史はまだ浅いものの、十分に実践の道具として耐えられる完成品との印象を受けた。

 ファンタジー・プレイ・ボードとは、公園場面と家庭場面の2枚のボードがあり、そこに、擬人的動物(ほど良い平凡さ)や器物などのパーツを自由に置いて、物語を作ってもらう趣向である。著者は、箱庭療法やTATの理論を援用したとしているが、MAPSにも近似しているし、平面表現であり、置き方の試行錯誤が容易である点では、コラージュにも似ているところがある。いずれにしろイメージと物語を扱う面接者の道具一般の特性を豊かに有していることに違いない。

 本書の内容であるが、ガイドブックの名にふさわしく、親切な入門的な記述が中心で、本法のパーツやテーマの使用・出現頻度の統計、また18の事例分析などを提示し、そつがない。特に、記述の平易さからは、臨床心理学に無縁な幼児教育従事者にも気軽に読んでもらえるための配慮を感じる。物語を引き出すことにおいて優秀な道具と思われる本法だけに、今後、物語の作り直しなど、治療的な実践例や応用例が、中級書として上梓されることを期待したい。

 ついで紹介したいのは、「あしたてんきになあれ」という絵本である。これは家庭裁判所調査官が裁判所の離婚に係る実務のなかで生み出したもので、両親の離婚を経験するこどものために、その気持ちを癒し、前向きな気持ちを持てるよう、6歳から9歳児を対象に作成した絵本である。こちらも、先のガイドブック同様、調査官グループの地道な勉強会の積み重ねの中で誕生したものであり、よくまとめられている。また疑似動物家族も描きすぎておらず、眺めていて連想が広がる。

 絵本の内容は、一般に通過する離婚の心理的、実際的プロセスが、こどもの視点から体感できるようになっている。冒頭では、夜中に、こどもが両親の言い争いを聞いてしまい、翌朝、怖い夢を見たのだと自分の言い聞かせる場面が物語られているが、最初からそのリアリティにぐっとくる。そして物語は、離婚を経て、別れた親との交流などにまで展開してゆくのであるが、こども以上に、渦中にある両親やそうしたことにかかわる援助者がまず読み、味わうべき内容に満ちていると思われる。巻末には、親向けの解説文が付いており、離婚時のこどもへの配慮について簡潔な助言としてまとめられている。

 このような背景で誕生した絵本というのは、考えてみると本邦初ではないだろうか。ずいぶんと使い勝手の良さそうな絵本であり、臨床現場での道具としても十分に機能しそうである。

この2冊はともに、色濃い物語を有して誕生したものであり、関係諸氏には、臨床の道具として取り込むことをぜひおすすめしたい。

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