講演録「牧師のストレスとセクハラ問題」(8)
2008.04.21 Monday 22:35
■■脱線する、本当の意味
しかし、ここでもうひとつ大切な論点があります。それは、悪循環の果てに脱線するとしても、いろいろな脱線の仕方があるということです。個性があるんですね。
いす
なぜある人は粗暴な振る舞いに出て、なぜある人は性的な領域で逸脱するのか。またなぜある人は浪費し、ある人は盗むのか。このことは今日の一番大事な部分です。性的な逸脱であっても、なぜある人は触り、ある人は盗み見、ある人は強要し、ある人は卑猥な話をするのでしょうか。その人にとって、特定の行為こそが特別な意味を持っているからです。
それは、犯罪にしろ、ハラスメントにしろ、深刻なトラブルにしろ、それを行うその人にとっては、大切な適応努力になっているのだ、ということです。どういうことかといいますと、たとえば、非行や犯罪を例にしますと、傷害事件とか、暴力行為事件、恐喝事件とか、そういったぶっそうなことを、なぜ行ってしまうのか。心の深いところでは何が起きているのかを考えてみたいと思います。若者であれば、本当は学校の勉強で目立ったり、賞賛をあびれば良かった。運動だったり、趣味であったり、友人関係などで、活躍できれば良かった。しかし、そういうものがダメな中で、最後の最後に自分の無力感、劣等感を払拭するための手段なんですね。問題行動は。
ですから、人を暴力でおどしたり、実際に実力行使に出たりするのは、その場面ではその人にとっては、原始的な方法ですが、手っ取り早く「強い自分」を味わうことができるんですね。脱線する本当の意味というのは、強い自分を味わう幻想的な体験をその人なりにする、ということなんです。
たとえば、無免許運転を繰り返す若者がいたとすると、実は、バイクをがむしゃらに運転して、本当はふがいない自分をいつも感じているけれど、その運転場面では、自分は同じ歳の子たちが出来ないことをしているんだ、とか、あるいは、自分の運転テクニックは天才的だとかですね、そう思いながら、強い自分を味わっているんですね。ただ単に爆発するのではなくて、その人なりに「バイクの無謀な運転」という方向性をきっちりと持っているわけです。
性的な問題というのも、実は一番深いところでその人の弱さを補うカンフル剤になっているということがあるんです。つまり、性的な問題の場合は、男性が加害者の場合には、男性性の問題が関わってきます。つまり、自分は男性として強い、有能な価値のある存在であるということを感じたいという思いの中で、暴走するのが性的逸脱の一番深いところの意味だと思います。すなわち、自分に自信が持てないときに、女性を支配したり、女性をあやつったり、女性をおびえさせたり、パターンは色々ありますが、そうすることで、その場での自分の男性としての強さを味わう瞬間になっているということですね。これは幻想的であるかもしれないけれど、瞬間的には、強力な男性性の潤いになります。本人はぐちゃぐちゃで何が何だかわからないところでも、幻想的でも自分の男としての優越的な体験をできれば、非常に自分自身がしゃきっとなって、強い自分というものを再確認できて、元気が出てくるというわけですね。
ですから、逆に性的逸脱を起こした人というのは、もともとは、かなり努力家であったり、目標が前向きであったり、あるいは、実際に実績がある方が多かったり、困難な状況に追い込まれても弱音をはかない人たちであったりすることがままあります。これは、本当にえげつない性犯罪をしている人と面接をすると感じることですが、決して性的誘惑、性的欲求がメインの問題ではまったくない、ということですね。むしろ、その人の背伸び・強行突破型の深刻な息切れの問題。そしてもう少し言えば、その息切れの底にあるのは、その人の男性性の劣等感、無力感の問題。それを認められないからこそ、強行突破の生き方が止められないでいるのです。

■愛人を囲う人
ひとつ、私の面接した事例を紹介します。ある大企業の管理職が、自分の会社の金を使い込んで捕まりました。そして刑務所に受刑しました。彼は、非常に誠実で努力家で、会社に就職したときも、一般職で就職しましたけれど、持ち前の根性と能力と人望のあつさで、すごい業績をあげていくわけですね。同時入社の総合職組みと対等に出世していくわけです。ところが、40歳後半になって、彼は先が見えてきたんですね。とうとう同期入社の総合職の人たちには出世では勝てないことが確定的となったんですね。彼にとっては、自分の劣等感を埋め合わせながら、会社人としていかに成功するかが生きるひとつのテーマでしたから、出世が限界に来たことは人生の危機になったわけです。彼はどうしたかというと、自覚はないけれど、そのころ時を同じくして愛人をつくったんです。愛人を囲うんです。だいたい企業の金の使い込みのパターンはどの事例でも同じですが、とにかく恋愛じゃないですよね。これみよがしにすごい金の使い方をします。愛人にマンションを買い与えるのにも普通のマンションではないんです。目が飛び出るようなマンションを買うんですね。デートも、これでもかという場所に行く。金をかけた海外に行くんですね。すごい金の使い方をして、すぐに自分の金がなくなって、家庭の貯蓄にも手をつけるけれど、それもすぐなくなってしまう。そして最後は会社の方に手をつけます。ほどなく見つかって捕まりますね。
これは何が起きていたのかというと、自分が人生の後半戦になったときに、自分の人生が途切れてしまい、挫折感、無力感、劣等感が押し寄せてきたときに、最後の最後の手で使うのは異性なんですね。女性を支配する形で自分の強さ、有能さを幻想的に味わうわけです。そこには生き方としての大きな問題があるわけですが、決してその人が生来の性質として、他の人より性的誘惑に弱かったり、性的な欲求が高いということではないんです。むしろ、強行突破の行き方の極端さ、男性性の問題がはらんでいるというふうに思うわけです。
(つづく)


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2020.02.17 Monday 22:35
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Comment
2008/04/24 10:51 PM posted by: ふじかけ
花鳥風月さん

ヘンリー・ナウエン。
霊性をどうするか、
カソリック、プロテスタントと問わず、
人気がありますね。

プロテスタント、また福音派は、自らの内に蓄積した霊性がないために、ナウエンから借りてくる感じでしょうか。

おっしゃるとおりですね。

私も彼のけっこうファンで、このブログに、「アンサー・ナウエン」という連載エッセイを始めようとしたほどです。
ですが、彼の濃いファンがたくさんいますので、躊躇し、結局、掲載しないままでいます。
それとナウエン。けっこうがんばる人です(笑い)。

2008/04/22 6:31 PM posted by: 花鳥風月
息切れ★=霊的枯渇★

その当時が
浮かびます★

この事柄は
深い と
思います★

個人も そうですが、
組織的な霊的枯渇も
考えられ★ 

現代の 福音主義に
問われること と。

この流れ で 、
ヘンリー。Nへと
進む ケース が
有りますね。

イエスさまの願い
通りが 実現しますことを☆
切望♪


2008/04/22 4:35 PM posted by: ふじかけ
ーー子 さん。

いつもしっかり読んでくださり、ありがとうございます。
「人の内面からのものは 形をかえて出てくる」
そのとおりですねえ。

・・・・・
たろうさん

「現実的な事例」
これが私の教師です。
「でも、ほんとに聴くべき人がこういうことに耳を傾けてくれるだろうか、という課題」
おっしゃるとおりです。
この講演録とは別に、番外編を構想中です。

・・・・
くぼきさん

「そう言えば、「息」ってヘブル語で「霊」をも意味しますよね。
息切れって、霊的枯渇なのかもしれません。」

ひぇー、なるほど。私に中でいろいろな事柄がつながり始めました。ありがとうございます。
ちなみに私の08年、年間目標は、「呼吸を深くする」です。

2008/04/22 9:43 AM posted by: くぼき
一牧師として、一連の連載を読ませていただきながら、
「息切れしていいんだなぁ」としみじみ思わされながら、
読ませていただきます。

そう言えば、「息」ってヘブル語で「霊」をも意味しますよね。
息切れって、霊的枯渇なのかもしれません。

そう考えると、息切れして霊的に枯渇したまま無茶をすれば
暴走しやすいのでしょうね。
息切れしたときこそ、ゆったりと主を待ち望むことが大切なんだと思わされています。
2008/04/22 8:47 AM posted by: たろう
こうした現実的な事例を紹介して、しっかりと人間の姿を知っていくことが大切。自分の隠された姿を、鏡を見せつられるように見て、いつの間にか頭をもたげてきている内なる欲求の醜さに気づくことでしょう。そして、水をかけられた火種のように、燃えさかろうとする勢いを事前に消火できるのではないでしょうか。
でも、ほんとに聴くべき人がこういうことに耳を傾けてくれるだろうか、という課題があります。
2008/04/22 8:16 AM posted by: ーー子
 いつもしっかり読ませて頂いてます。
 そう コップにあふれてくる水 どんどん増えていった先 最後の
表面張力でこぼれ落ちてくるのは 人の内面からのものは 形をかえて出てくる・・・・  このことを 人が もっと知っていたら〜
表面でしか見ないのが 一般ですからねぇ〜  以上つぶやきでした。  次回も 楽しみにしています。 
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