書評:「自殺の危険」
2006.12.18 Monday 19:05
書評:「自殺の危険」
(掲載:臨床心理学、金剛出版、2006年3月)

 本書は、自殺の危険について、その臨床的な評価や介入のあり方などを、実に広範にわたって解説したものである。臨床の専門家だけでなく、自殺の危険性の高い人を理解しようという家族や友人にも役に立つように書かれているためか、文章が平易で読みやすく、みずみずしい感じさえする。総じて、臨床的知見が全体を導いており、「哲学的な議論や統計学的な議論を進めていくつもりはない。むしろ、その姿勢は極力排除し、日常臨床に可能な限り密着してまとめていきたい」とする著者の意図が十分に成功している。

 改訂増補とあるように、1992年に上梓された有名な初版を基に、大幅に改訂を行ったものである。グリーフ・ケア(第8章)や、自殺報道(第9章)、過労死の問題(第10章)、自殺予防の国際的動き(第14章)、自殺報道(第9章)などを新たに独立した章で扱っており、初版から改訂版までの14年間の自殺の臨床と研究の広がりに意欲的に対応している。
右斜め下
考えてみると、自殺の危険性が問題にならない臨床はそうはないのではないだろうか。

 評者も、自殺に関しては、臨床上の切実なテーマとして、その時々に直面してきたように思う。まず法務省の矯正施設で心理職として勤務していたときは、収容者の自殺防止をするために、初回面接で、自殺する危険性を評価、判断することが求められていた。施設特性の評価尺度のようなものを用いたり、自殺企図歴などの情報から判断して、自殺要注意者の指定などを行い、処遇にあたる職員に注意を喚起することが業務の大切な役割になっていた。また心理テストでは、自殺念慮を示す指標が学習や研究の対象となった。さらに法務省を辞め、臨床の場が民間の相談室に移った現在は、自殺した遺族のケアを担当している。自殺とは死にゆく人だけの問題ではないことをまざまざと教えられている。

 しかし、こうは振り返ってみても、自殺の問題は、ひとつやふたつの足場からだけでは見渡せない広がりがある。本書のような体系書によって、読者は自殺にかかわる自分の臨床やその課題がどのような位置にあるのか、つながるのかを知ることができる。

 また逆に、身近すぎてかえって鈍感になっているものもある。たとえば、実際にクライエントに自殺された専門家に対する対応のあり方の記述(214頁〜)に、評者は心を揺さぶられた。これまでいかにそうした同僚や後輩に対して、乗り越えてこそプロだなどといった、おざなりの対応をしてきたのかということを反省させられたからである。基本といえばそうなのかもしれないが、鈍感になっているとなかなか見えてこないのである。

 本書は、そのように専門書であり、日々の臨床をあらためて振り返らせ、啓発してくれる基本書でもある。ありとあらゆる心の専門家に、多くの示唆と自己点検の機会を与えてくれるものとして本書を推薦したい。

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