雨と傘の世界を楽しむ・その3
2009.06.08 Monday 18:09

 ■ いじめと傘

 傘が個人空間の確立であり、それがうまくいっていない場合の究極のエピソードとして、学校や職場での「いじめ・いじめられ」があげられるのではないだろうか。

 江國香織の「いじめ」問題を扱った短編小説「緑の猫」はその好例であろう。ここで登場するエミが、
中学以来の親友の「あたい」の視点から語られていく。二人は同じ高校に進学し、朝も返りも一緒、休み時間もお弁当も一緒という親しい間柄であったが、エミが心の病に罹り、次第にクラスなどで孤立し、ついには親友の「あたい」との関わりも拒絶するようになる。

 あるとき、高野さんという非行少女っぽい女生徒に、エミは傘をどうどうと盗られてしまう。あからさまな盗みであるのだが、高野さんは勝手に自分の名前をサインしておきながら、「私の傘だよ。名前が書いてあったでしょう?」としらを切り、「じゃあエミちゃんとおそろいだったんだね」と図々しく目元をほころばせるのだった。

 「あたい」は激怒するのだが、当のエミ本人はすぐにあきらめ、何かに苛立ちながら、「傘なんてたいしたことじゃないんだから」と言い捨て、雨の中、エミは一人でその場を立ち去ってしまうのであった。

 この小説の中で、必ずしも高野さんの露骨な盗みが、いじめの本丸として描かれているわけではないが、傘が個人空間の象徴と考えるなら、この傘盗みのエピソードは、ダメージとして大きいものがあると考えられる。すなわち、学校生活の中で、自分の個人的空間を主張できず、そのための手がかり(傘)さえも奪われてしまうことは残酷な出来事であることに違いないのである。


■  自立の特徴〜雨の音を聞く

 それでは、自分の傘をきちんと開き、自立していくためには、どのようなことが必要であるのだろうか。

 それは第一に、傘をさしながら、雨音を楽しむことである。自立テーマの絵本には不思議と主人公が傘にあたる雨音を楽しむ様子が描写される。

 前出の「あめふり」でも、主人公のモモが幼稚園の往復で「おとなのひとみたいに、まっすぐ あるかなきゃ!」と意気込むときに、雨傘の上では、雨が聞いたこともない不思議な音楽を奏でていた。

 ぽん ぽろ ぽん ぽろ
 ぽんぽろ ぽんぽろ ぽんぽろ ぽんぽろ
  ……

 モモはこの不思議な音楽に、一人歩きを勇気づけられ、楽しいものにしてもらった。

  また前出の「おじさんのかさ」でも、主人公のおじさんがいよいよ傘を使い出すきっかけとなったのは、子どもの歌で、傘にまつわる雨の音のおもしさを聞いたことからだった。

 「あめが ふったら ポンポロロン
  あめが ふったら ピッチャンチャン」

 ポンポロロンというのは、傘に雨があたる音である。ピッチャンチャンというのは、雨の日の足音である。おじさんは、このような楽しい音の世界を聞いてみたくて、雨の中、傘をさして歩き始めたのであった。やはりここでも、傘を勇気をもって開くための動機付けに雨の音が登場する。
  
■ 雨の音を楽しむ

 それでは、傘が個人の空間の象徴とした場合、雨の音というのはどのようなことを指すのであろうか。それは、自分らしい生き方を打ち出すために、生々しい外界に飛び出したときの充実感や鼓動感を指しているのではないかと思う。人の側の空間と外の世界のちょうど境目にあって、傘の布地に雨音が響く。(地面の足音も、長靴など防水の努力と、水たまりなど地面のぬかるみとの境目にあって作られるものである)

 だからそうした境目で雨の音を聞くというのは、このような自分の生き方で、あるいはこのような自分のやり方で、けっこうやっていけそうだという感触を確かめ、味わうような心のときめきを感受していることをさしているのではないだろうか。
(つづく)

| ふじかけ | 雨の物語 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
スポンサーサイト
2020.10.17 Saturday 18:09
| スポンサードリンク | - | - | - | pookmark |
Comment
name:
email:
url:
comments:
Trackback
トラックバック機能は終了しました。
Search
Profile
Recommend
Recommend
Recommend
Recommend
Recommend
雨降りの心理学 雨が心を動かすとき
雨降りの心理学 雨が心を動かすとき (JUGEMレビュー »)
藤掛 明
雨の心理的イメージを鍵に、雨の降る物語を読み解く。カウンセリング論であり、人生論でもある。
Category
Archive
Latest Entry
Recent Comment
Recent Trackback
Links
Admin
Calendar
    123
45678910
11121314151617
18192021222324
25262728293031
<< October 2020 >>
記事分析
アート情報
Sponsored links
Mobile
qrcode
無料ブログ作成サービス JUGEM