雨と傘の世界を楽しむ・その4
2009.06.08 Monday 18:12

 ■  自立の特徴〜人を助ける

 しかし、「甘い雨のなかで」の「ゆう」は、雨の音を聞きながら、享楽的な生き方にさらなる弾みをつけた。「ゆう」の生き方はとても自立とは言えないものだ。

 実は真の自立に必要なことは、雨の音を楽しむだけではない。もうひとつ大切なことがある。それは、他者を配慮し、援助できる姿勢である。自立は、自分勝手に動けることだけではなく、他者を感じ、配慮、援助できることも含まれるからである。

 雨の比喩でいえば、他者に対して雨傘をさしのべ、入れてあげたり、貸してあげたりといった行為が出せるのかということである。

 このことについて本との出会いを中心に自分の過去を振り返る「本を読むわたし」(華恵)に興味深い体験談が載ってる。

 彼女が6歳のとき、アメリカから母親と帰国し、慣れない日本での暮らしが始まる。母親が仕事のない休日の時、朝から一緒に図書館に行く。そこで、アメリカの図書館にはない紙芝居に興味を持つ。なかでも「てぶくろを買いに」と「きつねとぶどう」の物語に感心させられる。前者は、お母さんぎつねが、子ぎつねに、人間の町に手袋を買いに行かせる物語であり、後者は、お母さんぎつねが我が身を犠牲にして子ぎつねを守った話で、そのことに数年たって子ぎつねが気がつくという物語である。どちらも子ぎつねの自立のテーマが語られ、それを助ける愛情溢れる母親ぎつねが登場することが共通している。

 まさに著者は、当時、母親に愛情を注がれながらも、慣れない日本という異国で始まる小学校生活を前にして、一人で格闘していく自立テーマに直面していたのだった。だからこそ、こうした子ぎつんねの自立物語の紙芝居に引きつけられたのである。


 ■  だいじょうぶかも

 この帰国して間もないころの図書館通いの話はまだ続きがある。

 あるとき、図書館に母と一緒にいったとき、途中から激しい雨がザーザー降り始めた。いざ返る段になって傘を持って来なかった母親は、図書館の入り口から駐車場のずっと向こうに駐車している車まで、濡れながら走っていく覚悟をした。ところが、6歳の著者は自分用の小さな傘を持ってきていたので、その傘を母親にさしだす。著者の、いわば援助者であった母親を、逆に援助する瞬間でもあった。

 二人は、車まで、子供用の傘をさしながら急いで走っていく。無事車に乗り込み、著者は後部座席に座り、運転席から振り向いて笑う母親を見て、はじめて気づく。母親の右側の肩から下がびっしょりだったのだ。傘が小さく、かつ母親が子どもの方に傘を傾けていたために、傘はあまり役に立たなかったのである。しかし、母親は、そんなことには無頓着に「ハナエ、ありがとね」と喜ぶ。

 いわれた著者は、傘は小さすぎたのに、「ありがとう」と言われたことに素直に喜び、「急に大人になったような気持ち」を味わうのだった。

  「だいじょうぶかも。わたし、これから、いろいろなこと、ちゃんとできるかも。お母さんがいない時も、ひとりでだいじょうぶかも。」と思うのだった。

 この著者の体験談は、自立の物語の要素に満ちている。自分用の傘を持ち、いざというときにも備えている。しかし、自分を守るだけでなく、他者、それも親に傘をさしだし、援助しようとする。援助するその行為が実は自分に返ってきて、自分の自立への自信に結びついてくるのである。

 人は、こうしたことを良い循環で積み重ねることで、より成熟した自立に向かっていく。その際、この話の母親のように、本当はあまりメリットがないのに、傘をさし出してくれる気持ちをありがたく受け止めてくれる被援助者の存在も重要である。とりわけ、他者を援助しようとする初期のころには、絶大な影響がある。

■  傘から考える成長と援助

 傘をいかに使い、いかにさし出すことができるのか。これは、傘から考える成長と援助のあり方ということになる。

  ここでは3つの絵本をとりあげ、その辺のあり方を考えてみたい。

 まず、傘をさす人自身の問題として、「たまちゃんのすてきなかさ」(かわかみたかこ)は興味深い。

 主人公のたまちゃんはお気に入りの黄色い傘をもって散歩に出かける。途中から雨が降ってきたので傘をひらくと、なんと傘にまあるい穴がいくつもあいていた。あわてて雨宿りをすると、軒先の蜘蛛が、たまちゃんの窮状をみて、自分の糸で傘の穴に網をはってふさいでくれたのである。そのおかげでまた散歩を再開したが、糸にひかかったしずくがきらきらして、たまちゃんは傘が素敵になったと感じて喜ぶのだった。

 しかし、雨が急に強く降ってくると、穴に張った糸がほつれて、雨粒がそこから落ちてきてしまい、再び木陰にかけこむのだった。

 同じように、今度は鳥が声をかけてくれて、あじさいの花びらで傘の穴をふさいでくれる。花模様ができて喜ぶたまちゃんだったが、結局、強い風に花びらは吹き飛んでしまう。

 最後は、公園の池にいたカエルが、傘に飛び乗って、傘の穴をふさいでくれる。傘の上でカエルたちが歌う声を聞きながら、たまちゃんは楽しい散歩を続けるのであった。
(つづく)

| ふじかけ | 雨の物語 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
スポンサーサイト
2020.01.23 Thursday 18:12
| スポンサードリンク | - | - | - | pookmark |
Comment
name:
email:
url:
comments:
Trackback
トラックバック機能は終了しました。
Search
Profile
Recommend
Recommend
Recommend
Recommend
Recommend
雨降りの心理学 雨が心を動かすとき
雨降りの心理学 雨が心を動かすとき (JUGEMレビュー »)
藤掛 明
雨の心理的イメージを鍵に、雨の降る物語を読み解く。カウンセリング論であり、人生論でもある。
Category
Archive
Latest Entry
Recent Comment
Recent Trackback
Links
Admin
Calendar
   1234
567891011
12131415161718
19202122232425
262728293031 
<< January 2020 >>
記事分析
アート情報
Sponsored links
Mobile
qrcode
無料ブログ作成サービス JUGEM