雨と傘の世界を楽しむ・その5
2009.06.08 Monday 18:15

 ■  穴が開いていてもかまわない

 この「たまちゃん」の傘はスタートから穴があいていた。その都度、周囲の協力も得て、しかし成り行きで、その穴をふさぐ工夫をしていく。

 そのように、人は傘というまず自分自身を守るものを、完全なかたちで持つことにこだわる必要はないのである。不具合が生じても悲観する必要はまったくない。その都度補強し、その都度工夫すればよいのである。そうすれば防御のレベルが高まるばかりでなく、傘自体も素敵さを帯び、潤いや楽しさをもたらしてくれるようになる。逆に最初から完全なものを求める生き方は、かえって挫折するし、傘自体をきちんと開くことを躊躇させてしまうかもしれない。何より、潤いがなくなり、窮屈な世界に身を置くことになりかねない。

 また、たまちゃんには、その都度、助けてくれる人(小動物)がタイミング良く現れることにも注目したい。これはたまちゃんが良い意味で弱音を吐いていることに関係している。だから援助者が現れることが可能となるのである。これは「五重塔」の主人公にもつながる特徴である。

 そして、たまちゃんは、助けてくれたその人を、自分の傘に入れてあげて、散歩を続ける。蜘蛛も、鳥も、当人らの希望を入れて散歩の随行者になる。援助されることと援助することが実は同時に起こることを示すエピソードであるが、私たちも、援助を受けたとき、こちらもその状況に良くあった援助を与えていく可能性に思いをはせるべきであるし、最初に援助した側であれば、相手から別のかたちで援助を受けることの可能性を謙虚に感じていたいものである。


■  かさかしてあげる

 次に「かさかしてあげる」(こいでやすこ)をみたい。

  この物語は、森で雨に降られた少女なっちゃんが、傘がなくて困っているところから始まる。彼女の
ためにいろいろな動物たちが自分の傘を差しだしてくれる。最初は、ありさん、ついで、かえるさん、うさぎさん、たぬきさん、そしてくまさん。みな自分のふだん使っている葉っぱの傘だった。しかし、どれもこれも、小さすぎたり、大きく重すぎたりして、役に立たない。最後に少女の家から犬が「なっちゃんのかさ」を持ってきてくれ、ようやく彼女は安心して傘をさす。彼女が歩き出すと、その後ろには、めいめいに自分にあったサイズの葉っぱの傘をさす動物たちが続くのであった。

 この物語はシンプルながら、傘がおのおののサイズにあったものが必要であることを教えてくれているように思う。自分自身のために使う傘も、自分にちょうど良い傘があるし、自分が他者のさし出す傘も、そのまま相手に役立つわけではないということである。

 私たちは、知らず知らず自分の使う傘を標準にしているものだ。自分の生き方、自分の問題解決スタイル。それは、自分の個性や歴史や実力に絶妙にバランスをとった、いわばオーダーメイドのものなのである。だから、自分の側で想定した援助があっても、それがそのまま相手にとって役立つものとなるとは限らない。むしろ相手の日常使いの傘のスタイルをこちらが想像していく必要があるのである。

■  ちいさなきいろいかさ

  最後に「ちいさなきろいかさ」(もりひさし)をとりあげたい。

 ここでも少女が黄色い傘をもって雨の中、散歩に出る。途中、出会った動物たちを次々に、その傘の中に招き入れるのである。そういう意味では積極的、意欲的な援助者の物語になっている。

 まずうさぎさん、りすくんが傘に入った。もとより小さい傘であるため、三番目に出会った動物は胴長のだっくすくんは、とても体全体が傘にはいれない。少女が困っていると、不思議なことに、だっくすくんの分だけ傘がのびて広くなったのである。

 傘は援助対象者にあわせて自在に広がっていく。その後、ばくの親子づれも入れてあげる。きりんさんが入るに至っては、その背丈にあわせて傘はなんと高くなってしまうのである。このように、援助者というのは、実情にあわせて援助の範囲や程度を自在に変化させていくものであるし、何よりも援助を受ける側の事情にあわせることが肝心なのだと思う。

 ところがこの積極的な援助者の少女に新たな問題が立ちふさがる。それはこの大所帯の少女の黄色い傘ご一行では、高い木々のところまで来ると、その間を通れないのである。その高い木では、さすがの傘も変わりようがなかった。魔法の傘も困惑しきりだ。

 そのとき起こったことは、傘の魔法の力ではなかった。傘の下にいた動物たちが、次々に大きい動物を下に背中の上に乗り上げ、縦に重なった。一番上に乗った少女が傘を掲げると、高い木の上に傘が出て、無事通ることができたのである。これは援助者のプランというより、援助の恩恵を受けている人が、一緒になって援助者側に回り、新たな方法を創造していく姿をファンタジックに現しているといえる。そして、こうした援助者と被援助者が一体となって新しい援助を創造していくことが、援助の最大の魅力ではないかと思う。

■ 傘ももとにもどる

 この後、動物たちは次々に自分の雨宿りの場所を見つけて、少女の傘から出て行く。雨も次第に降りが弱くなり、最後は止むのであるが、なっちゃんのかさも、いつの間にか小さくなっているのだった。

 ここには、傘の下のメンバーが最終的には自立していくものであることが示されている。そして援助者側の傘もそれに応じて、拡大ばかりでなく、積極的な意味での縮小すべき時があることを物語っている。援助される人の自立と、援助する側のさし出すもののバランスは非常に難しいものであるが、とりわけ最終段階でさし出すものを縮小させていくさじ加減は難しい。

 やはりここでも、援助する側の謙虚さが問われている。自分の思惑でしきるのでなく、右肩あがりで仕掛けるのでもなく、相手の人格的な性質を絶えずに肝に銘じながら、関わることが大切なのである。

 傘をもとのサイズに戻すとき。そのときほど、その人の成熟した生き方が現れやすいのである。

  繰り返しになるが、余裕があるから傘をさしだすのではない。成長したから人に配慮するのでもない。傘をさし出すことで、新たな喜びと余裕をもらい、他人を援助することで、自分が成長しいくのである。


  雨の物語には、苦しみや困惑、不安などが伴いやすい。しかし、その中で傘を人にさし出すなど、他人を配慮し、援助する要素が加わると、今度は潤いや楽しみなどの明るい気持ちが生まれてくるのである。

 だから、雨の降る物語のなかで、私たちは傘の扱われ方に注目することで、私たちが他人を配慮し、自分を成長させていくための営みの諸断面を味わっていきたいと思うのである。

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藤掛 明
雨の心理的イメージを鍵に、雨の降る物語を読み解く。カウンセリング論であり、人生論でもある。
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