牧師の疲弊研究(超ダイジェスト版)
2010.04.01 Thursday 19:25
タイトル

 

日本のプロテスタント牧師の疲弊研究

− 牧師のストレス類型とその臨床像の検討

 


*先日、修士課程を修了した衣笠詩子氏の修士論文を基に、指導を担当した私と共同研究の論文として残すことにした(「聖学院大学総合研究所紀要」)ものである。ただ、本文は膨大なボリュームになるため、研究史や手続きをほとんど割愛し、とびとびに本文の記述を拾い、また後半の中核の事例部分もすべて割愛して、超ダイジェスト版をここに紹介する。

 
サブタイトルに示すよう、3つの牧師のストレス類型を提示できたことがこの論文の功績だと(自画自賛ながら)思っている。


1.研究の背景

 牧師という仕事は,宗教的使命感という高い動機付けをもっており,日々やりがいを感じながら過ごせる特殊な職業ということができる。しかし,現実には,牧師としての準備教育を受けたうえで,任務に就きながらも,中途で心身ともに疲弊し,離職,あるいは辞職を余儀なくされるケースが多く報告されている。

 

牧師といえども,宗教的な側面ばかりでなく,人間的,心理的な側面もあることから,そこに注目することも必要になる。現在,報告されている牧師の離職・辞職問題や,その背景にある心身の疲弊の問題をそうした側面から接近,検討を行うことは重要な課題である。特に信徒や来会者などの人間関係に深く関わり,対人援助者として働く牧師の心理的負担を明らかにし,理解することは緊急の課題であると考えられる。

 

 すでに,対人援助専門家の特有の疲弊については,バーンアウトburnoutいう概念で,医師・看護師や学校教師を対象に様々な報告や研究がなされている。本論文では,このバーンアウトの概念を,牧師の心身の疲弊の理解の枠組みとして用いて,心理的側面から接近していくこととしたい。

 


 

2.研究の手順

 まず,牧師のストレス要因を明らかにするための調査票を作成した(3.予備調査)。これは我が国には,既存の牧師向けのストレス要因調査票が存在しないため,独自に作成する必要があったためである。

 ついで,その牧師ストレス要因調査票を使った調査結果を基に,どのようなストレス要因が,どのようなバーンアウトと関係しているのかを調べた(4.研究1-1)。さらに,それらの調査結果を,ばらばらでなく,複合的なかたまりで捉え直すために,因子分析の手法により,数量的に類型化をはかった(5.研究1-2)。

 最後に,上記で得たストレス要因類型では,実際にはどのような人物像の牧師が存在し,どのようなストレス要因と格闘し,どのようにバーンアウト傾向を深刻化させないように対処しているのかを,実際に該当牧師にインタビューをし,臨床的な事例情報を収集することで,事例を検討し,考察した(6.研究2)。

また,最後の一連の考察をふまえて,今牧師のバーンアウトを防止する際に重要なものはどのようなものがあるか,そのとるべき対応を提言した(7.提言)。

 

3.予備調査<牧師ストレス要因調査票の作成>

 本論文では,牧師の対人援助職としてのストレス要因を調査するための調査票が必要であるが,先行研究がなく,他の対人援助職用の調査項目の援用も難しいことから新たなものを作成することとした。

 

 手続きは省略

■表1 牧師ストレス要因調査項目(一部)

1)牧師の仕事の範囲が広く、その量も多い。
2)牧師の休暇が取りにくい。

…など、36項目

 

4 研究1-1  <バーンアウトとの関係でみた牧師のストレス要因>

 

省略

 

5.研究1-2 <牧師のストレス要因による類型化>

 

手続きは省略(先の「牧師ストレス要因調査項目」を変数に、因子分析にかけ、3軸を抽出した。)

 

第1因子を見ると,これに高い因子負荷量を示す項目は,「教会の伝統や慣例が多く,牧師のリーダーシップが発揮しにくい」「前任者の教会への影響」「役員との葛藤」「教会の中に派閥がある」「信徒との葛藤」などの項目であった。これらの項目は,牧師が教会でリーダーシップをとろうとするが,それに抵抗する勢力があり,思うようにならずに疲弊する姿を示している。したがって,第1因子を「教会の覇権争いというストレス要因」と命名する。

  第2因子を見ると,「信徒からの相談事への対応の負担(心理的な問題の相談)」「信徒からの相談事への対応の負担(信仰上の相談)」「信徒の冠婚葬祭へ対処する大変さ」「教会の経済的自立の大変さ」「任職教会のある地域の問題(気候や利便性など)」などの項目であった。これらの項目は,牧師が世話役として信徒に孤軍奮闘し,サービスすることによって疲弊する姿を示している。「教会の経済的自立」に苦慮しているのは,まだ信徒の少ない伝道所のような教会で,手数が少ないことを示唆しているし,また「気候や利便性の異なる地域の特徴」には,交通の不便な信徒のために牧師が車で迎えに行くなどの,やはりサービスに奮闘する機会の多いことを示唆していると考えられる。したがって,第2因子を「信徒の世話役というストレス要因」と命名する。

 第3因子を見ると,「牧師の家族の問題(牧師の家族として)」,「牧師の使命感や目的意識の問題」,「牧師の家族の問題(牧師の家族とは無関係に)」,「牧師の育った家族(原家族との問題)」,「牧師の信仰的,霊的な問題」などの項目であった。これらの項目は,牧師としての資質,とりわけ使命感や信仰的・霊的事柄という牧師としての資質の限界を示しているし,それは,個人的な家庭事情(現在の家族や原家族との関係)にもかかわる本質的で恒常的な資質の限界を示していると考えられる。したがって,第3因子は,「牧師としての資質の限界というストレス要因」と命名する。

  以上,因子分析の結果,牧師のストレス要因類型として,3つの因子(類型)が抽出され,それぞれ命名を行った。一覧で示すと表8のとおりである。

 

■表

第1類型  牧師としてリーダーシップを思うようにとれない。

「教会の覇権争いというストレス要因」群

第2類型  牧師として信徒のお世話役で大変である。 

「信徒の世話役というストレス要因」群

第3類型  牧師としての資質に限界を感じている。

「牧師としての資質の限界というストレス要因」群

 

 

b)牧師ストレス要因類型とバーンアウトとの関係

省略

 

.研究2 <3類型の臨床的検討>

 

省略

 

(4)考察

[牧師ストレス要因類型の命名の確認]省略

[ストレス要因に対処する臨床像]省略

[各類型の比較]省略

 

7.提言

 

 これまでの考察をふまえて,今牧師のバーンアウトを軽減する際に重要なものはどのようなことであるのかを考察し,それに対応した提言を行う。

 

(1)   神の計画を待つ姿勢の重要性

 

 すでに第1類型では,自らの信念を持ちながらも,そうした人間の思惑を超えた神の計画を待つ謙抑的な姿勢があることでストレス要因から免れることを指摘したところである。しかし,他の類型でも,この神を待つ姿勢は牧師の重要な転換点として報告されている。すなわち,第2類型では,牧師が調整役として動くのは,「牧師のやり方で支配しない」ように気をつけているからであり,神の方法が牧師の思惑を超えて行われることを自覚しているからである。同様に,第3類型でも,混乱しやすい牧師が「なることはなる。ならないことはならない。神がここから何をしてくださるか期待する」という神の働きを待つ姿勢が見られる。

 このように,ストレス要因から免れ,バーンアウト傾向を軽減化するためには,自分の思惑や計画を相対化し,神の計画を待つ姿勢が重要であると考える。

  このようなことのためには,知的理解に終わらず,体験的な理解となるよう,実際の場面での悩みに応じて援助するメンターやスーパーバイザー,ケースコンサルタントなどの存在が大きい。彼らが必要に応じて牧師に直接会ってサポートするような体制が必要である。この点については,諸教団で,メンター制度を導入し始め(金子,2009,また臨床心理士によるケースコンサルテーションの活動も始まっており(聖学院大学,2003),今後の更なる拡充が望まれるが,一方で牧師の専門的スーパーバイザー制度は我が国にはまだなく(窪寺2010),今後の立ち上げ,整備が望まれる。

  また牧師個人にあっては,積極的に個人のネットワークを積極的に活用し,紹介の紹介を含め,積極的にメンターやスーパーバイザー,ケースコンサルタントを求め,依頼することが望まれる。

 

(2)孤立しないサポート体制を持つ重要性

 

 第2類型について,信徒との適切な距離を保つことで,ストレス要因から免れていることを指摘したが,この類型の背景要因として,同業仲間からのサポートや超教派の働きなど,孤立化しない環境が整えられていることも重要な点であると考えられる。すなわち,孤立しないサポート体制を持っているということである。これは第1類型でも,予期せぬ来訪者の訪問を受けて慰められ,離職の思いが解消されたという転換点がったし,第3類型でも,同じ教会のある信徒から絶えず安定した援助,支持を受け続けたことや,牧師会での交流が初期の苦労を乗り越えるのに大きく作用していた。

 このように,ストレス要因を免れ,バーンアウト傾向を軽減化するためには,孤立せず,周囲の様々な絆によって支えられることが必要であり,そうしたサポート体制を持つことが重要であると考える。

 坂野(2006)は,牧師が友情を知らなければ,支配的になるか,従属的になるか,孤立することを指摘し,教会の中で真の交わりが生まれない原因のひとつとして牧師の孤独をあげている。

  このようなことのためには,教派を超えた牧師同士の友情関係を結べる出会いや場を用意することが望まれる。また,新任牧師などを対象とした自助グループの企画,運営などもこのような必要に対応するものとして意義があると考える。

  また牧師個人にあっては,所属教団のプログラム,卒業神学校のプログラム,その他超教派のプログラムなどに参加し,同世代の対等に本音を語り合える牧師の友人を探すことが望ましい。

 

(3)生育体験など自分自身の心理的問題を解決し,成長をはかっていく重要性

 

 第3類型での典型事例では,根深い生育史上の問題に苦しみ,父親との和解のプロセスを,中年期になってもひきずり,苦闘したケースであった。このような第3類型にあっては,生育体験など自分自身の心理的問題を解決し,成長をはかっていく重要性を指摘した。このようなことは,第1類型でも幼い頃の転校体験での苦しみが,第2類型でも思春期のころの田舎出身者としての劣等感などが語られており,その後の対人関係,とりわけ信徒との対人関係の結び方などに影響していることが想像されるし,家族の信仰や職業の影響もあるものと思われる。

 また,こうした生育体験の影響は,単に心理的な問題にとどまらず,神との信頼関係形成に,また召命感・使命感の形成にも影響を大きく及ぼす(窪寺,2010)ものであり,牧師の成長を考えていく上で,避けては通れない問題である。

  このようなことのためには,ベテラン牧師による指導だけではなく,精神科医や臨床心理士などによるカウンセリングなどの心理的な成長,成熟に向けた援助を行う体制を用意することが重要である。また,一般の心理テストを受けたり,自己洞察を目的とした心理療法を受ける機会を拡充していくことも望まれる。

  また牧師個人にあっては,上述したプログラムがクリスチャン専門家に運営されたものと限定するとまだ数が少ないが,近年増える傾向にある。また多くのプログラムは,ノンクリスチャンの専門家によるものであっても有益であり,そのような問題意識で探すことで受検,受講がかなりできると思われる。

 

(4)実践的な神学教育,および卒業後の継続教育を充実させる重要性

  すべての類型の典型事例にあっては,神学校を卒業し,最初の数年内で,最大の危機を体験し,一時的とはいえ離職やそれに近い思いを抱いている。それは初任とともに,教会組織の最高責任者として,実際の複雑などろどろした人間関係を中心とした問題に直面することを考えるなら当然ともいえ,初期の適応に向けた実践的な神学教育が重要になる。

また,上述した(1)〜(3)での提言も,卒業後の継続教育の課題となるが,それ以外にも,臨床牧会教育,説教の実践訓練,グリーフケアなど特定の対人理解・援助に特化した研修・研究など,多様な教育プログラムを用意していくことが肝心である。

 

8.本研究の独自性と今後の課題

 

  本研究では,牧師のストレス要因に着目し,牧師ストレス要因の3類型を作り,その臨床像を探った。これは,我が国の牧師の研究にあって,初めてといえる実証的な研究である。また3類型を提供することで,経験則的で総花的な論議に陥りやすい問題に,共通した体系や土俵を用意することができたものと考える。そして,類型を手がかりに具体的なストレスに対処する姿を検討し,ストレス対処に向けての提示を行なうことができたものと考える。

 今後の課題として,牧師ストレス要因類型の事例検討では,負の典型事例のみを扱うことになったが,正の典型事例,すなわち失敗事例についても分析していくことが必要であると考える。

 また,本研究ではまず「ストレス要因」に注目したものであるが,その対処様式であるコーピングについても研究を進め,原因の分析にとどまらず,その解決方法についても,実証的に検討していく必要があると考える。

 サンプリングの問題として,今回は一教団の牧師集団に限ったものであったが,今後はプロテスタント各派のサンプルを抽出するとともに,サンプル数も増やしていくことが必要だと考える。

 

付記 省略

 

文献 省略

 

 

 



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2020.01.23 Thursday 19:25
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2010/04/04 9:04 PM posted by: ふじかけ
クレオパさん

>そのためには信徒側の意識改革という両者が必要で、それができるような説明責任、信徒への教化が指導者に必要ではないかと思いました。

牧師のメンタルヘルスは、牧師自身の改善と、信徒側の改善の両面がありますね。

バーンアウト問題は、対人援助職特有の現象なんですね。一般の忙しい人が、うつになったり調子が悪くなるのとは異なる要素が入っています。

いつのひか、できれば近々、日本人の牧師のメンタルヘルス問題を、学術的に書いてみたいと思いつつ、英語の文献を調べて、取り寄せて、読む、という3つの作業(つまりすべて)がしんどそうで、なかなか着手できないでいます。まずは文献探しから、動き出さないと…。
2010/04/04 8:08 PM posted by: ふじかけ
医師さん

お読み頂きまして、ありがとうございます。
もしお医者さんなら、バーンアウトの問題はついてまわりますね。
2010/04/01 10:29 PM posted by: クレオパ
大変充実した、興味深い内容でした。
ジェームス・フーストン先生は燃え尽きないための秘訣として「牧師の役割に対する自意識過剰を避ける」とおっしゃってました。
本論文では 7(1) に当たると思われました。そのためには信徒側の意識改革という両者が必要で、それができるような説明責任、信徒への教化が指導者に必要ではないかと思いました。

ただ、教団によって指導者の責任を大きく捕らえ、信徒側もそれに対して敬意を表し、立ち入らないという位置をとるところもあると思うので、そうした教団での指導者のバーンナウトが心配です。
よい記事をありがとうございます。

2010/03/23 3:18 PM posted by: 医師
なじみの無い牧師という職業。
大変興味深かったです。
ありがとうございます。
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