原稿:被災地から離れて住む者として
2011.05.03 Tuesday 10:02
 
*この記事は、リバイバルジャパン誌(5月15日号)に掲載されているものです。リバイバルジャパン誌のHPで公開されましたので、本ブログでも、掲載いたします。なお、本誌は<特集>として、今回の震災の「心のケア」を取り上げています。
 私以外にも、村上純子先生(臨床心理士)へのインタビューなどがありますので、HPのほうをぜひご覧ください。

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なお、今回の記事のそもそものルーツは、4月5日の小さなグループで語り合った際の内容を文章化したもので、その場で語り合ってくださった方々には御礼申し上げたい。

 
災害について一日、途切れることなく語りあう



被災地から離れて住む者として
「日常」と「非日常」のバランスを保つ

聖学院大学大学院准教授・臨床心理士 藤掛 明



 未曾有の大規模震災が起きた。私は埼玉県に住み、地震当夜は、職場から自宅に歩いて帰った。自宅はテレビと、書棚のいくつかが倒れ、本やその他で足の踏み場がなくなった。いろいろな行事や仕事が中止になり、計画停電では心細く、出勤では不便な思いをした。親族で被災した人たちがいたが、大地震後4日目に電話がつながり、安否が確認できた。東北地方の友人たちについても、家が全壊した人はいたものの無事でいることがわかった。

 私は被災地にいる人に比べれば、生活のダメージも少なく、なによりも大切な人との死別という深刻なダメージを免れている。気持ちは前向きで、節電を励み、義援金を出し、被災地支援のために、なにかアクションを起こしたいと願う。これは私だけでなく、被災地から離れて住む者としての一般的な状況ではないかと思う。実際に似た状況にある方々と話し合うなかで、考えさせられていることを以下に簡単に述べさせていただこうと思う。


 

1.心の中で何が起きているのか

人は直接被災していなくとも、大規模災害の影響を受ける。テレビ報道などを通して心理的に被災を擬似体験をする。今回はそれに原発事故や放射能汚染の不安も加わっている。もちろん物理的な影響を被ることもある。たとえばある人は卒業式や入学式が中止となり、ある人は仕事に甚大な支障が出たりする。しかし、被災地の人を思うと、それらに不平不満を述べることははばかられ、そうした思いを溜め込みやすい。また被災を免れたことに安堵する気持ちと、そう思う自分に嫌悪を抱く気持ちとで揺れる。

これらのストレスが一気に訪れることは平時にはないことであり、タフな人でも、いらいらしたり、無気力になったり、逆にハイテンションになったりする。何事も悲観的に考えやすくなり、柔軟さのないぎすぎすした人間関係も生まれやすい。

私たちは、こうしたことが当然起きるものであることを理解しておきたい。大災害の後の心の揺らぎは、事態を受け入れ咀嚼する健康な心の営みであり、自らの心の回復の作業が続いている証しでもある。

ただし、日常生活に支障が出るレベルで不調が続くようであれば、カウンセラーに相談することをお勧めしたい。


2.何を心がけるのか

.丱薀鵐垢鯤さないようにする

被災地から離れていることでかえって、私たちは「こんなときに自分の仕事をしているべきではない。」「被災地の人を思えば、もっともっと何かをすべきだ。」とふと思うことが多いのではないだろうか。大事なのは、「日常生活を守る」と「被災地を思う」。この二つの極をどちらも大切なものとして受けとめることである。とかくどちらかに傾きやすく、バランスを失ってしまうからである。

被災地から離れ住む人へのアドバイスとしてよく言われることは、災害報道のテレビを見過ぎない、日常生活をこなし、自分の気晴らしや娯楽を大切にする、といった事柄である。これらは要するに、「日常を守る」側を犠牲にし過ぎてバランスを崩してしまわないように注意を喚起しているのである。

¬詰をせず、できることから始める

「日常」を守った上で、可能な範囲で始められることを行動に移すことも大切である。節電や義援金もあるし、キリスト教界や地域社会が用意している多様なボランティアもある。ただ、今回のような大規模な災害への支援は、長期戦である。1年後も3年後も支援が求められる。いろいろな時期、局面で、違った出番が回ってくるかもしれない。支援者の支援、という働きもある。くれぐれもバランスをとりながら、挑戦することが肝心である。

8譴襪海函語り合うことを大切にする

自分のメンタルヘルスのために、自分の感情や考えを他者に語り、また語り合うことは大切なことである。身近な友人や家族などに、いつも以上にそうした機会を持つよう心がけることが重要である。教会でも、参加者が震災後の自分について語り合える場を積極的に用意することが望ましい。

3.被災地でボランティアを予定している方へ

右記2の考え方は、被災地にあっても大切になる。被災地という「非日常」にあっても、やはり日常を守ることが必要で、自分なりの日課や気晴らしなどをかなり意識して続けられるよう考えたい。とくに一日の仕事を終えたとき、また一つの任務を終えたとき、支援者グループや関係者で振り返りと語り合いのときを持ち、「非日常」から日常に戻る節目のときを持つことが肝心である。

4.不透明な状況に対処する

,匹舛蕕を切り捨てずに対処する

「日常」と「被災地」の双方が大事であるのと同じように、復興や援助にあたっても、私たちが感じる二つの極がある。それは、神の奇跡的な介入と、無力な人として小さな努力を積み重ねていくことの二つである。どちらも同時に大切なもので、どちらか一方を切り捨てるようなものではない。また、情報が十分にないときには、楽観的な展開と悲観的な展開と、私たちは両方の可能性があることを、その都度受けとめていく必要がある。

教会やクリスチャンが儀式を創る

心には、生活の見通しや節目が必要である。大規模な震災は、こうしたものを壊してしまう。新しい出発には、広い意味での宗教性のある儀式が求められる。ある学者は、原発事故問題に関連して、日本社会として地鎮祭のようなものを今後再興していくことを提案している。日本の再出発に向けて、個人としての節目、地域社会の節目を創るべく、教会ならではのアイデアを出し合いたい。そして新しい国づくりに向けて、教会や信仰者が、さらなる智恵を祈り求めていくことの必要を思う。

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2011/05/18 5:51 PM posted by: ふじかけ
はちこ さん

リンクをはっていただき、ありがとうございます。

節目となり儀式。それも教会ならではの…。
そうなんです。
何人かで集まってブレーンストーミングをしたいくらいです。

「お祈りコラージュ」(大勢が自分の各作品を創って、それらをどこかに一同に集める)、
「合同お祈りコラージュ」(大きな壁面に大勢の人が合同で貼り付け作業をする)など、
考えてみましたが、なにせスケールの小さいアイデアばかりです。
2011/05/15 11:01 PM posted by: 玉ちゃん
藤掛先生

私は一クリスチャンです。
被災者の方々や子供たち、又遠くにいる人達の心ケアの記事は多くありますが、福島の被爆をしている方々の、20ミリシーベルト問題による恐怖や心配、不安、ストレスの原発うつと呼ばれている問題があると思います。

どうかこの複雑な解きがたい疑心暗鬼のようなココロのことも扱ってください。

気になるブログ記事を見つけました。

http://d.hatena.ne.jp/eisberg/20110515

「文科省「放射能を必要以上に心配するとPTSDに」精神科医が抗議」

それは、文科省が福島の保護者や子供たちに対して放射能のことを心配し過ぎるストレスは、PTSDを起こすといつ資料を配布していることです。それを見た精神科医が講義をしている記事です。

藤掛先生も文科省の認可された教育機関で働いていると思いますので、複雑なこともあるかと思いますが、どうか声をあげてもらえないでしょうか。

あまりにもひどい事態を。 一教育者として、援助者として、キリスト者として、子供たちや保護者のために。
2011/05/03 10:22 PM posted by: はちこ
藤掛先生、
私のブログでも、先生の記事へのリンクをはらせていただきました。

http://d.hatena.ne.jp/mmesachi/20110503

節目となる儀式の大切さということ、私も思わされています。教会ならではのもの、本当に考えていきたいですね。

先生のお働きに、心から感謝いたします!
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