故 奥村晋先生を偲ぶ
2018.01.25 Thursday 23:33

 

<法務省退官後の奥村先生。TV出演中>

 

 

ウイットに富み、常にスケールの大きいビジョンを抱え、かつそれらを次々と実現されていく人。それが奥村晋先生であった。法務省の心理技官を代表する大人物であり、定年退官後も、大学や民間施設、学会などで多彩に活動されていた。本学会との関連で言えば、学会の生みの親のお一人であり、名誉会員で草創期の常任理事でもあった。あまりに多彩な活躍ゆえ人それぞれにいろいろな姿が去来すると思うが、私の中での奥村先生像は、天才的な講演者である。法務省時代からそうであったが、各地で行う講演は、専門家向けにしろ一般市民向けにしろ、軽妙な語り口でいつのまにか聞く人を新しい視点に導くような魅力に満ちていた。その奥村晋先生が、2017年4月29日、ご逝去なさった。ここに謹んで哀悼の意を表し、ご冥福をお祈りしたい。

 

 

奥村晋先生は、1927年生まれ。1950年に法務省(心理上級職)入省。松山、高松、札幌、浦和、横浜、大阪の各少年鑑別所所長を歴任された。1987年に高松矯正管区長を最後に定年退官。法務省時代から活躍は多岐にわたり、行政的分野で新しい政策を実現させたり、研究所や研究会、学会を作ったり、膨大な実績を残されている。論文も多いが、普段は編集者的役割に回り、後輩臨床家たちの共著のお膳立てをされることが多く、それも先生らしいお姿であった。『家族画ガイドブック』(矯正協会)などはその好例であろう。法務省退官後は、一般向けの書籍を著し、『子育てから子離れまで』(春秋社)、『非行は世の鏡』(JCS出版)、『よい子はよい大人になるか』(小学館)などがある。

 

 

いささか個人的な思い出になるが、私は大学を卒業し、横浜少年鑑別所で働き始めて数年がたったころ、出張で大阪少年鑑別所にうかがうことがあった。その夜、当時大阪少年鑑別所長であった奥村先生の官舎で職員有志の宴席があって、私も参加させていただいた。酒を飲めない私にコーヒー牛乳を用意してくださり、当時私が行っていた描画研究のアイデアについて、熱心に耳を傾け、アドバイスまでいただいた。宴席は盛り上がり、いろいろとデリケートな話も出てきたが、先生は人の悪口を決して言わなかった。また、常に発想がユニークで、時折逆説的な論を放ち、その場にいる人々のフレームを心楽しく揺さぶるのであった。このときの強烈な印象はその後も一貫してそうであり、奥村先生ならではの世界であると思っている。

 

 

  今にして思うと、ちょうどこの頃、先生は家族画の研究・啓発活動に着手していた時期である。大阪少年鑑別所に、家族画の実践紹介のためにNHKのテレビカメラを入れたり、大学研究者や病院医師らを巻き込み、家族画研究会を設立するなどしていた。この家族画研究会は、年々拡充し、その後日本描画テスト・描画療法学会になっていくのであるが、先生はこの運動を最前列で牽引されていたのである。

 

 

その後も奥村先生の描画臨床での精力的な活動は続いた。1991年のことであったが、すでに退官し、研究所に籍を置いておられた奥村先生から私は研究の依頼をいただいた。内容は、タイ王国の非行少年の描いた家族画を分析するというもので、統計を使った学術論文にせよとのことだった。期限も厳しく、データ収集も心配な部分があり、本来なら躊躇するべきだったが、奥村先生のオーラに包み込まれるように、喜んでお引き受けした。こうした研究は、奥村先生の常であるのだが、それで終わるのではなく、更なる夢と企画につながっていく。このときもタイ王国に職業訓練学校を日本政府主導で建設する大きなプロジェクトがあり、この家族画研究も、その学校のプロジェクトを後押しする役割を担っていた。日常業務もそれなりに忙しかったので、この家族画の論文執筆は、それから3か月くらい、深夜に眠い目をこすりながら行うことになった。そして論文が紀要に掲載されたときはうれしかったが、タイ王国のその学校が実際に開校された報に触れたときはそれ以上の喜びを感じた。
  そもそも構想雄大で積極思考の人物はけっこういる。しかし奥村先生の場合は少し違う。現実をリアルに見据えて、ネガティヴなことを把握しながらもあえてポジティブな決断をしていく。それも特定の人物への嫌悪や勝ち負けに拘泥せず、とびきりの理想主義から問題を考えていく。

 


数年前になるが、朝、突然私の自宅に奥村先生から電話がかかってきた。自宅に電話をいただいたのは初めてのことである。電話口の先生は力のある話しぶりであったが「もう引退すべき歳になったので研究データを処分している。ついては例のタイ王国の家族画作品が段ボール3箱分あるので、そちらに送らせて欲しい。必要なければ処分してくれてもいいし、研究に使うなら自由に使ってもらってかまわない。」私は80歳代後半になった奥村先生の提案にこのときもあっさりと同意した。先生の大切にしていた描画研究資料の一部をお裾分けいただくかのような提案は、先生の夢とアイデアを継承するようで、うれしかった。

 

 

最後に重ねて奥村先生のご冥福をお祈りするとともに、奥村先生が残された学問と実践とその精神をあらためて胸に刻み、日本描画テスト・描画療法学会を発展させていくことをお誓いしたい。

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