書評:「ファンタジー・プレイ・ボード」                     &「あしたてんきになあれ」
2006.12.09 Saturday 11:46
書評:ファンタジー・プレイ・ボード ガイドブック
書評:あしたてんきになあれ
(掲載:臨床描画研究、金剛出版、2006年)

 物語には力があり、それを眺めなおすたびに、ユニークな意味を見いだすことができる。

 これは、長い間、司法・矯正の現場で面接をしていた評者の実感である。それは少年鑑別所で、家族画を描いてもらって、描画後の質問・会話をしているときであったり、少年院で、グループの時間に、コラージュをみなでわかちあっているときであったりした。

 考えてみると、非行・犯罪相談にしても離婚相談にしても、当事者がどちらかというとかなりタフであり、他罰的に物事を考えがちなため、援助関係が作りにくい。また、一見常識的に理解しやすい動機や原因を熱心に語ってくれるものだから、理解することにおいても、治療・指導することにおいても面接者はすぐに手詰まり感に襲われる。しかし、というべきか、だから、というべきか、そうした臨床に身を置いていると、心理査定や心理療法、あるいは親教育などについて、いろいろな道具(偽薬から劇薬まで)を活用することに積極的となるし、物語を眺めなおすことにも精力的にならざるを得ないように思う。

 さて、今回紹介する2冊の本であるが、いずれも司法・矯正の実務家や出身者によるものであるのだが、一読してみて、ともに「物語」を扱うユニークな道具を鮮やかに見せていただいたような感じがした。

 まず「ファンタジー・プレイ・ボード ガイドブック」である。

 これは著者らが、幼児向け箱庭療法として、より幼児になじみやすく使いやすいものとして、創案したものである。保育士や養護教諭らとの地道な研究会の中で、試行、修正されてきただけに、歴史はまだ浅いものの、十分に実践の道具として耐えられる完成品との印象を受けた。

 ファンタジー・プレイ・ボードとは、公園場面と家庭場面の2枚のボードがあり、そこに、擬人的動物(ほど良い平凡さ)や器物などのパーツを自由に置いて、物語を作ってもらう趣向である。著者は、箱庭療法やTATの理論を援用したとしているが、MAPSにも近似しているし、平面表現であり、置き方の試行錯誤が容易である点では、コラージュにも似ているところがある。いずれにしろイメージと物語を扱う面接者の道具一般の特性を豊かに有していることに違いない。

 本書の内容であるが、ガイドブックの名にふさわしく、親切な入門的な記述が中心で、本法のパーツやテーマの使用・出現頻度の統計、また18の事例分析などを提示し、そつがない。特に、記述の平易さからは、臨床心理学に無縁な幼児教育従事者にも気軽に読んでもらえるための配慮を感じる。物語を引き出すことにおいて優秀な道具と思われる本法だけに、今後、物語の作り直しなど、治療的な実践例や応用例が、中級書として上梓されることを期待したい。

 ついで紹介したいのは、「あしたてんきになあれ」という絵本である。これは家庭裁判所調査官が裁判所の離婚に係る実務のなかで生み出したもので、両親の離婚を経験するこどものために、その気持ちを癒し、前向きな気持ちを持てるよう、6歳から9歳児を対象に作成した絵本である。こちらも、先のガイドブック同様、調査官グループの地道な勉強会の積み重ねの中で誕生したものであり、よくまとめられている。また疑似動物家族も描きすぎておらず、眺めていて連想が広がる。

 絵本の内容は、一般に通過する離婚の心理的、実際的プロセスが、こどもの視点から体感できるようになっている。冒頭では、夜中に、こどもが両親の言い争いを聞いてしまい、翌朝、怖い夢を見たのだと自分の言い聞かせる場面が物語られているが、最初からそのリアリティにぐっとくる。そして物語は、離婚を経て、別れた親との交流などにまで展開してゆくのであるが、こども以上に、渦中にある両親やそうしたことにかかわる援助者がまず読み、味わうべき内容に満ちていると思われる。巻末には、親向けの解説文が付いており、離婚時のこどもへの配慮について簡潔な助言としてまとめられている。

 このような背景で誕生した絵本というのは、考えてみると本邦初ではないだろうか。ずいぶんと使い勝手の良さそうな絵本であり、臨床現場での道具としても十分に機能しそうである。

この2冊はともに、色濃い物語を有して誕生したものであり、関係諸氏には、臨床の道具として取り込むことをぜひおすすめしたい。

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